賢明女子学院中学校・高等学校

光あれ 日々の所感 校長 松浦明生光あれ 日々の所感 校長 松浦明生

2018/06/19

雨天実行!or中止?                   

楽しみにしていた球技大会が延期になり、ようやく今週の金曜日に実施となりましたね。よい天気になることを祈っています。
天候の話題が出ると、私はいつも思い出す話があります。もう60年以上前の出来事についてです。
当時北海道と本州の間の青函トンネルはまだなくて、青森と函館の間は青函連絡船で結ばれていました。そのころの1954年9月のことです。この日の夕方、青森から函館に向かう予定の連絡船羊蹄丸の佐藤昌亮船長は船員たちに告げました。「本船はテケミする」。「テケミ」とは「天候険悪出港見合わせ」の略語で、天候の具合を見て出港を見合わせるときに使う船乗りたちの隠語です。確かに、台風が近づいてはいるけれど、天気はいいし波風もそれほど立っていない、操舵手はこのいい天気に信じられないという顔付きでこれに従います。「本船テケミ!」と復唱しました。
 このとき接近していた台風は時速110キロという猛烈に速いスピードで日本海を北上していました。台風情報も現在とは違って正確な情報が瞬時に伝わるのではなく、少し時間差があって入ってきます。そのような状況下にあった出港の約1時間前、青森の天気は青空が広がる状況になりました。「台風の眼に入った!」と佐藤船長は思いました。台風の眼に入ったのなら以後天候は回復していくはずだから出港準備をしてもよいことになりますが、ひとつ気になることがありました。台風の中心は気圧が最も低いので、台風の眼に近づくに従って気圧は下がって当然なのですが、気圧計はそのまま動いていないのです。風は確かになぎましたが、おかしい。佐藤船長は、自分の知識と経験に照らしてデータを見たとき、大丈夫だという自信が持てませんでした。そこで、テケミする決断を下したのです。船長の命令は絶対ですから船員は従いますが、収まらないのは乗客です。「船長は意気地なしだ」、「優柔不断だ」とさんざん非難されます。しかし、佐藤船長は何を言われようとがんとしてテケミを続けました。
 同じころ函館から青森に向かう連絡船もありました。洞爺丸といいます。洞爺丸の近藤平市船長は佐藤船長以上のベテランでしたが、こちらは悲劇となります。函館では午後から東風が強く吹いた後、青森と同じように晴れ間がのぞきました。台風の眼に入ったと思われましたが、台風の目が通り過ぎれば上がるはずの気圧が下がっているのです。近藤船長も奇妙だと思ったようですが、最終的に出航を決断し、不運な諸事情も加わり予定より2時間ほど遅れて出港しました。このあたりの詳しい事情について興味のある生徒は、上前淳一郎さんの「洞爺丸はなぜ沈んだか」(文春文庫)を読んでください。かなり古い著作なので手に入らないかもしれません。
実は、このときの天候は台風本体の動きによるものではなかったのです。台風の東側にあった温暖前線が台風に押し上げられるように北上して函館に東風を吹かせました。そして、台風の東側に寄り添う形で北東進してきた南の寒冷前線が温暖前線に追いついて奥羽北部で閉塞前線になり、午後4時少し前に青森付近を通過しました。その直後に、青森地方では風が弱まり、晴れ間がのぞきました。羊蹄丸の佐藤船長が台風の眼だと思ったのは、この閉塞前線のいたずらだったのです。函館でも遅れて一時的に晴れ間が見えましたが、これも閉塞前線が通過した瞬間に風がなぎ、美しい青空が広がった現象だったのです。函館では温暖前線の影響で波風が強かった後に晴れ間がのぞいたのでなおさら台風の眼だと思ってしまったのでしょう。
しかし、洞爺丸が出港するころには台風本体の影響で海はかなり荒れてきていて、洞爺丸は出港したはいいものの、函館湾を出ることもできない状況になり、横波にあおられて浜のほうに流され、座礁転覆します。死者1155人、日本の海難史上最悪の海難事故となりました。世界の海難事故史上でもワースト3に入る惨劇でした。洞爺丸を転覆させたこの台風はのちに洞爺丸台風と名付けられました。
 さて、私たちは洞爺丸事故から離れ、洞爺丸の悲劇に隠れた羊蹄丸の船長の決断に注目したいと思います。青森の天候は最後までそれほど悪くなりませんでした。天候は悪くならなかった上に5時間以上待たされ続けた乗客たちの不満の声も浴びながら、それでも自分の判断を信じてテケミを続けた佐藤船長の行動は、なかなか真似のできるものではありません。でも非常時には佐藤船長のような、判断力が確かでしかも肝のすわった人間が真に必要とされるのです。
賢明の生徒であるあなた方のうち、何人が将来社会に出て人命を預かるような責任ある仕事に関わるかどうか私には分かりませんが、どのような仕事につくにしても、周りの人の意見をよく聴きながら最後は自分で考えて判断し実行できる人間になってほしいと思います。

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