賢明女子学院中学校・高等学校

光あれ 日々の所感 校長 松浦明生光あれ 日々の所感 校長 松浦明生

2021/05/10

「自分らしさ」について

おはようございます。
前回の放送朝礼ではジェンダー平等について話をしました。今日の話もそれに関連する話になります。中学1,2年生には少し難しい話になるかもしれませんが、がんばって聞いてください。
ハーバード・ビジネス・スクールのジョセフ・L・バダラッコ教授は自著の『決定的瞬間の思考法』という本のなかで、スティーブ・ルイスという一人のビジネスマンの直面した悩みとその悩みに対して彼がどう決断したかを紹介しています。スティーブ・ルイスはニューヨークの一流の投資銀行でアナリストの仕事をしているアフリカ系アメリカ人です。あるとき会社から彼に、重要なビジネスに発展する可能性のあるクライアント向けのプレゼンテーションを手伝えるかどうかの打診がきました。彼より専門知識を持っているベテランの社員を差し置いての抜擢でした。しかし実はこれには理由があり、クライアント側から今回のミーティングには黒人が少なくとも一人は出席するよう要望が出されていたのです。
皆さんは「アファーマティブ・アクション」という言葉を聞いたことがありますか。「ポジティブ・アクション」とも呼ばれ、日本では「積極的格差是正措置」と訳されていて、人種や民族、ジェンダーなどマイノリティに対する差別是正を目的とした優遇措置のことをいいます。具体的には、大学受験において人種的マイノリティの受験生の合格基準を非マイノリティの受験生よりも低く設定したり一定の枠を設けたりする、企業においては役員の男女比をどちらも最低40%になることを目標とさせるといった措置がこれにあたります。スティーブ・ルイスの会社が交渉することになったクライアント会社はアファーマティブ・アクションに沿って、アフリカ系社員を同席させるよう要求してきたというわけです。
スティーブ・ルイスはこの打診を受けて悩みました。では皆さんがルイス氏になったつもりで考えてみてください。皆さんはこの提案を受けますか、それとも断りますか。
提案を受け入れるか断るかの判断基準はどこにあるのか分かりますね。ルイス氏はアフリカ系という理由で選ばれたのであって、能力を評価されて選ばれたのではなかったのです。このことに触れずに自分を納得させる結論を出すのは難しいです。能力を評価されたための抜擢ではないのだから、その観点から考えれば断るべきでしょう。しかし一方、出世の機会を逃したくはない。ルイスは大いに悩みました。彼が大いに悩んだのには理由があります。彼の脳裏には、自分の親が人種差別に対して敢然と戦ってきた過去が浮かんできていました。この提案を受けることは、肌の色の違いを逆に武器にして出世の機会を得ることになり、親の生き方を否定することにつながります。
悩んだ末、彼が出した結論は、条件付きの受諾でした。つまり、「プレゼンテーションに参加するが、同席するだけではなく、自分にも発表の機会を与えてほしい」ということでした。能力を買っての抜擢であることを認めさせようとしたわけです。もちろん発表がうまくいかなければ、そら見たことか能力はないじゃないか、となりマイナスの評価が定着してしまいます。そのリスクをあえて背負っての条件付き受諾でした。会社はその提案を受け入れ、彼に12分間のプレゼンテーションの機会を与えました。こうして彼は、アフリカ系であるというアイデンティティを損なうことなく能力を評価してもらう機会も得ることができました。
ここに紹介したルイスの悩みは、結局のところ「自分とはだれなのか」という問いかけだったのだといえます。アフリカ系であるという出自を含めたこれまでの生きざまが問われたわけです。ルイスはこの問いに正面から向き合うことで最善の結論を出すことができました。
 「自分とはだれなのか」、「自分らしさ」とは何か、について、皆さんも折に触れて考えてみるといいと思います。私であれば、カトリックの価値観・世界観の中で生きてきたこと、男性であること、日本人であること、などが「自分らしさ」、すなわち「アイデンティティ」として挙げられます。これら自分にとって譲れない要素と向き合って生きていくことが自分らしく生きることにつながるのだと思います。世界的指揮者の小澤征爾氏は、日本人の自分がヨーロッパの音楽を指揮するということはどういうことなのか常に悩み考えている、とかなり以前に話しておられるのを聞いたことがありますが、日本人というアイデンティティを自覚して指揮をしているからこそ彼の音楽は普遍性を持って世界中に認められているのです。
 なお、アファーマティブ・アクションについては問題点も指摘されています。代表的な反対論としては、入学試験でマイノリティの出願者を優遇するのは逆差別であるというものがあります。私は、制度上の問題点はあるができうる限り問題点を取り除いた上で導入するのであれば差別撤廃の手段として有効である、と思っています。皆さんもそれぞれ考えてみてください。
ハーバード大学での講義録を『これからの「正義」の話をしよう』という本にして著したマイケル・サンデル教授は、大学なり企業なりがみずから定めた使命を掲げてその使命の追及のためにアファーマティブ・アクションをおこなうのであればそれは認められるのではないか、という立場を取っていました。
今日はアファーマティブ・アクションという差別是正優遇措置の紹介をするとともに、自分らしさを構成しているものは何であるかを考え、自分らしく生きることを大事にしてほしいということについて話をしました。
 それでは話を終わります。

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