賢明女子学院中学校・高等学校

光あれ 日々の所感 校長 松浦明生光あれ 日々の所感 校長 松浦明生

2021/05/17

スマホ脳

おはようございます。
今日は最近話題になっている『スマホ脳』(新潮選書)という本の紹介をします。読んで知っている生徒もいるかもしれませんね。なかなか衝撃的な内容です。著者はアンデシュ・ハンセンというスウェーデンの精神科医です。それでは内容を紹介していきましょう。
ハンセン氏はスマホの話に入る前に、まず人間の脳がこれまでに獲得し進化させてきた特性について触れます。彼は、我々の直接の祖先となる人類が誕生してから現在までざっと1万世代が交代してきたと仮定します。これら1万世代の人々のうち9,500世代までは狩猟採集民として生きていました。つまり9,500世代の人々は食料や資源が常に不足し、危険な動物もいる世界に生きており、この世界で生き抜いていくためには周囲の危険を常に確認していなければなりませんでした。少しでも早く危険を察知し、危険に対し闘うか逃走するかを判断しなければなりません。また危険ではない未知のものにも常に注意を払い、食べられるものかどうかを判断することも生き延びるために必要不可欠な能力となります。こうして未知のものをいち早く察知し、どのように行動すべきか素早く決断する能力を持った人間の方が生き延びる可能性が高くなり、このような形質を持った人間の子孫が世代を重ねていき、この能力が人間の脳の特性、本能となっていきました。
生き延びるために周囲の環境に注意を払い理解しようとするこの本能に関わる脳内物質がドーパミンです。一般にドーパミンは人間の意欲・運動・学習能力に深くかかわっていて、この先何かいいことがあると感じたときに出るといわれ、ドーパミンが適度に分泌されると人間は意欲がわき集中力がアップして効率がよくなります。また何かを達成した後にほめられるなど「ごほうび」が与えられると分泌量が増えるので報酬物質ともいわれています。
ですがハンセン氏は、ドーパミンの最も重要な役目は私たちを元気にすることではなく、何に集中するかを選択させることだと言います。お腹が空いているときにテーブルに食べ物が出てきたら、その食べ物を見ているだけでドーパミンの量が増えます。食べるという選択をさせるためにドーパミンの量が増えるのです。人間は9,500世代を重ねるうちに、新しいもの、未知のものを探しにいきたいという衝動、ドーパミンがしっかり組み込まれた状態で生まれてくることになりました。
さて、私たちが生きている今の時代、パソコンやスマホが新しい情報や知識を運んできます。もともとは生き残るための戦略だったはずの未知のものに反応する脳のメカニズムのせいで、人間はデジタルのごほうびに次々と飛びつきます。スマホをいじっていて着信音が聞こえると新しい情報を探そうとする本能からドーパミンの量が増えます。「大事かもしれない」ことに強い欲求を感じ、私たちは「ちょっと見てみるだけ」とスマホを手に取ります。しかもこれを頻繁にやっています。
パソコンやスマホのページをめくるごとに、脳がドーパミンを放出し、その結果私たちはクリックが大好きになります。しかも実のところ、今読んでいるページよりも次のページに夢中になっているのです。インターネット上のページの5分の1に、私たちは時間にして4秒以下しか留まっていないそうです。10分以上時間をかけるページはわずか4%です。
現代のデジタルライフでは、このようなネットサーフィンの影響で複数のことを同時にしようとしがちになります。マルチタスクといいます。勉強をしながらネットサーフィンをする学生もいます。マルチタスクをなかなかやめられないのは、新しいことに目を向けるとごほうびにドーパミンが放出され気持ちよくさせてくれるからなのです。フェイスブックやインスタグラムには、「いいね」を意味する親指マークやハートマークがありますが、マークがつくのを少しの時間保留することがあるそうです。そうやって、私たちの報酬系が最高潮にあおられる瞬間を待っているのです。
テクノロジーに精通している人ほど、その魅力が度を越していることを認識し、制限した方がいいと考えています。スティーブ・ジョブズは10代の自分の子どもには、iPadを使ってよい時間を著しく制限していたそうですし、ビル・ゲイツは子どもが14歳になるまでスマホは持たせなかったそうです。フェイスブックの「いいね」機能を開発した人物であるジャスティン・ローゼンスタインは自分のフェイスブックの利用時間を制限することに決め、スナップチャットのほうはすっぱりやめたそうです。
では、このようなマルチタスクは勉強に対してどのような影響を与えているでしょうか。
人間は一度に複数の作業をこなしていると思っていても実際は作業の間を行ったり来たりしているだけで、一度に一つのことにしか集中できません。しかもさっきまでやっていた作業が脳に残っていて、ほんの数秒メールに費やしただけでも犠牲になるのは数秒にとどまりません。ある実験によると集中する先を切り替えた後、再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかるという示唆があります。作業効率はガタ落ちになるのです。
知能の処理能力にもっとも重要なものは集中力です。狩猟採集経済の時代は色々なことに注意を向ける、言ってみれば注意散漫が大事だったのですが、現代は逆に集中力が求められる時代です。ところがマルチタスク人間は集中力が苦手、それもかなり苦手になっていることが治験によって明らかになっています。なかでも、重要でない情報を無視することができなかったそうです。ある課題から別の課題にどんどん移っていくマルチタスク能力を測って見ても、マルチタスク派は得意分野であるはずのマルチタスクですら、注意散漫の影響で成績が悪かったのです。スマホを机の上に置かずポケットにしまえば大丈夫かといえば、そんな単純な話ではないのです。スマホには人間の注意を引きつけるものすごい威力があり、その威力はポケットにしまうくらいでは抑えられないのです。もっと遠ざけなければいけません。大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりも良い結果が出ました。
記憶力にも大きな悪影響が出ています。記憶には短期記憶と長期記憶があり、大事な情報は固定化によって長期記憶させなければ忘れ去られてしまいます。固定化するためにはまず集中し、脳に「これは大事なことだ」と語りかけ、大事だという信号を何度も出さなければなりません。しかし、この作業をする時に絶えず新しい情報が顔を出せば、脳は特定の情報に集中する時間がなくなる上に限られた作業記憶が一杯になってしまい、知識の保存、長期記憶させることができなくなるのです。スマホは集中が必要な勉強にとって百害あって一利なしなのです。
まだまだ言い足りないのですが、時間がなくなってきたので本の紹介はここまでにします。
中間考査が近くなってきました。集中して勉強に取り組まなければいけません。スマホを持っている生徒の皆さんは、勉強を始めるときはスマホの電源を切って目に見えない場所に置くか、電源を切らないまでも近くに置かず音も聞こえない場所に置いておくことを勧めます。友だちにもあらかじめ勉強中はスマホを見ないという自分の方針を伝えておくとよいでしょう。このような習慣をつければ集中力・記憶力は必ず上がります。とくに受験勉強に入っている高校3年生は、今日の話を参考にスマホの使い方を考えてみてください。友だちと話し合って共通のルールを決めるとよいでしょう。
今日は『スマホ脳』という本の紹介をすることでスマホの持つ問題点について考えてみました。これを機会にスマホの弊害を理解し、スマホの使い方についてよく考えてみてください。

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