賢明女子学院中学校・高等学校

光あれ 日々の所感 校長 松浦明生光あれ 日々の所感 校長 松浦明生

2021/05/31

「傘」にまつわる話

おはようございます。

緊急事態宣言が延長されて我慢の時が続くことになります。球技大会は行事の性格上残念ながら中止せざるを得なくなりました。しかし、リモートで行うことのできる「聖母をたたえる集い」は緊急事態宣言下でも実施することができました。中2と中1の生徒は初めてリヴィエ館で集いに与ることができましたし、フルートとピアノのきれいな楽器演奏があり、とても良い集いでした。HRノートを読むと生徒の皆さんも久しぶりにきれいな行事に与ることができて喜んでくれたことが分かりました。ワクチン接種が高齢者から始まり、緩慢ではありますが若い人たちにもそのうちに行き渡るようになるでしょうから、夏以降の行事はぜひ実施したいと考えています。

9月には全校行事の学院祭が予定されています。「贈り物」をテーマに実行されるとのこと、楽しみにしています。企画の一つに中庭を舞台に「傘アート」があるのですね。どのような作品になるのでしょうか。今日は傘アートについても興味があり、また、梅雨に入ったことでもあるので、「傘」をテーマに、傘にまつわる話を紹介しようと思います。

傘は紛失したり取られたりするととても嫌な気分になります。私も2,3度持って行かれたことがあり、とても嫌な思いをしました。でも、そのことに目をつむれば、傘は本来の用途のほかに人と人との結びつきの道具にもなります。またコロナ禍の今は、逆に人と人のソーシャルディスタンスを保つのに有効という側面もあります。

傘という字は、なかに人という字が4つも入っています。長寿のお祝いの歳を表わす言葉として還暦や喜寿、米寿などがありますが、「傘寿」というお祝いもあります。分かりますか?傘という字の中にある人を取ると八と十が残り、つまり八十歳のお祝いを意味するのです。

詩人の杉本深由起さんは、人という字がたくさんあることに注目して、「傘」と題する一編の詩を創っています。

傘という字は

あたたかい

おはいりなさい

きみも

あなたも

人 人 人

ねえ みんな

つめてあげて

「水や空」(長崎新聞2020年6月21日)

『3人が詰めて、あと一人が入れば「傘」という字の出来上がり。小さな子どもたちだろうか、4人が肩を寄せ合うような1字はなるほど、ほの温かい』という感想が書かれていました。

さだまさしさんの歌に「雨やどり」という歌があります。突然雨が降ってきて傘をさすために雨やどりをしていた自分の隣りに男の人が雨やどりをしに入ってきた、爽やかな感じの人だったけれど見知らぬ人なので一緒に傘に入ってもらうのははばかられる、仕方がないからハンカチを貸してあげたけれど、いかにも女性用と分かるスヌーピーの絵柄のハンカチだったので傘を貸してあげる方が良かったかしらと思ったりする。これがきっかけで知り合い、ほのぼのとしたエピソードが展開して結ばれていくという歌です。傘がメインテーマではありませんが、傘の果たす役割は人間関係の距離感の度合いと微妙に関係していることが分かります。

傘と聞いて思い出した歌がもう一曲あります。今は亡きかまやつひろしさんの歌で「青春挽歌」という曲です。まったくヒットしませんでしたが、私の大好きな曲です。青春時代の甘酸っぱい思い出を春夏秋冬の4つの季節それぞれに合わせて歌った曲で、春は花びらのかかる乙女に恋をし、夏は船に乗りかじを取って揚々と冒険に旅立ち、秋は失恋を味わい、そして冬がこのような歌詞です。

冬は女の黒髪に       初雪かかり、情け知り

差し出す傘は相い合いの   手を取る我や雪の中

文語調で情緒のある歌詞ですね。かまやつさんの時代よりもっと古い旧制高校時代の学生あたりを念頭に置いて書かれた歌詞なのかもしれません。

では最後に、昨年も紹介した「心に残るとっておきの話」という本の中から傘にまつわる話を一つ紹介します。

『もう二十年も前のことになります。

二十一歳の私は、その日、臨月のお腹を抱え、検診のため病院へ向かっていました。実家のある駅で下車し、歩き始めてまもなく、ポツリ、ポツリと雨が降り出しました。

「夕立だ。どうしよう」

傘は持っていませんでした。4時頃といっても、まだまだ昼間の暑さを感じさせ、身重でなければ、ぬれても、どうってことはなかったのですが、この時は、(夏の夕方は急に雨が降ることがあるのに、無防備で歩くなんて)と、しきりに傘をもってこなかったことを悔やみました。が今更どうにもなりません。そこで私は母親の本能からか、(お腹の赤ん坊をぬらしちゃいけない!)と、とっさに両手でお腹を抱えると、小走りに駆け出したのでした。雨はますます強く降ってきました。と、その時、白いポロシャツの青年が懸命にこちらに向かって駆けてきました。私は(傘をさしているのに、なぜ駆けているのかしら)ぐらいにしか思わず、それより早くどこか雨やどりできそうな所へ行かなければとあせりました。

すると、その青年は私の前でピタリと止まりました。そしてすーっと傘を差しだすと有無を言わせず、傘の柄を私の手に握らせたのです。あっという間の出来事に「えっ」と私はビクリして立ちすくんでしまいました。

「どうぞ使ってください。お腹にさわるから」「あのう……」と戸惑いながら振り返った私に、「ぼくならいいんです」とニッコリ笑い、青年は駆けて行ってしまいました。

「あっ、ありがとう……」その声は言葉になっていなかったと思います。

(こんな親切な人がいるなんて)

さわやかな後ろ姿でした。私はずっと彼を見送っていました。

きちんとお礼も言わずにごめんなさいと気にかけながら、あの瞬間、あの場面を思うとき、私の中にやさしい時間が流れます。まるで私の心に虹がかかるように。

あの時の息子はもうすぐ十九歳になります。なぜか傘が好きでとても大事にしています。』

都丸愛子「虹を見た日」(「心に残るとっておきの話 第四集」より)

見ず知らずの青年のやさしい心遣いは20年経った今でも忘れられない温かい思い出になって残っているのですね。

傘を差しだした青年のこの行為は身重の若い女性の心に虹をかけましたが、同時に青年の心にも爽やかな余韻を残したのではないかと私は思っています。自分の心遣いをとても喜んでくれた人がいた、お腹の赤ちゃんのことを心配し不安に思っている人の役に立てた、という有用感・爽快感を抱いたことでしょう。困っている人を助けるということは、その人だけでなく自分をも幸せにするのです。

以上、傘をテーマにいくつかの話を紹介しました。学院祭では皆さんが創る傘アートをはじめ、自分の関わる部門の発表が楽しい思い出、甘酸っぱい思い出となって残っていくように悔いのない準備をしていってください。

 

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