賢明女子学院中学校・高等学校

光あれ 日々の所感 校長 松浦明生光あれ 日々の所感 校長 松浦明生

2021/06/14

技術の習得、自助か共有か

おはようございます。

のっけからトイレの話で恐縮ですが、以前にも話をしたように、私はトイレに本を置いておき、その本はトイレの中だけで最後まで読み終えるようにする習慣を20年以上続けています。1日数ページしか読めないので、1冊につき分厚い本だと読了まで数か月かかることがありますが、それでも「塵も積もれば山となる」で、20年続けていると読破した本は数十冊になります。今読んでいる本は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』という本で、ようやく12月の人物の話まできましたので、おそらくあと数日で読了できるでしょう。

この本は「仕事の教科書」とあるように、仕事に真剣に取り組んできた人たちの言葉を集めた本です。生き方の参考になるかどうかと問われれば、正直に言って、なるほどとうなずける話もあれば、参考にはあまりならない経験談もありましたが、こうした人生訓の話を読むと必ず出てくるのが、自分は師匠から直接技術を教えられることがなく、見よう見真似で技術を習得した、という話です。昔は技を伝える職業ではそのような厳しい師匠が多かったのですね。人に頼るのではなく自分で自分の技を磨け、という教え方はこれはこれで一つのやり方だとうなずける一方、自分の持っている貴重な技術を積極的に弟子や後輩に教え伝えていくことで技術、文化のすそ野を広げ、また底上げをはかるやり方もあってよいのではないかとも思いました。

ロックミュージックの世界の話で、皆さんは知らないロックバンドかもしれませんが、ビートルズと並んで人気の高かったイギリスのロックバンドにローリング・ストーンズというグループがいます。80歳近い今でも現役でがんばっていて、恐らく現役最高齢のロックバンドではないでしょうか。興味があればギネスブックで調べてみてください。このローリング・ストーンズの公演を聴いた黒人ソウルギタリスト、アイク・ターナーはストーンズのリード・ギタリスト、キース・リチャーズの演奏を聴いて驚きました。普通のエレキ・ギターで普通の弾き方をしているようなのにどこか響きが違うのです。アイクはコンサートの後キース・リチャーズに聞いたそうです。「おまえ、なにを演(や)ったんだ?どんなチューニングなんだ?演ってみせろ」。キースは、今ではそれほど珍しくはなくなりましたが、6本の弦をオープンGという特殊なチューニングにしてリフを考えて弾いていたのです。しかも、6本あるギター弦の第6弦をはずしていました。こうするとギターの一番低い弦の音がそのまま根音(コードのベース音で、オープンで弾くとGの音が鳴ります)になるのでとても弾きやすくなります。ミュージシャンによっては自分が弾くギターの音質の秘密を知られないように、アンプのつまみの部分に紙を貼って音質レベルの数字を見せないように隠す人もいるらしいのですが、キースは惜しむことなくぜんぶ大先輩に伝えたそうです。「自分だって黒人音楽のブルースやソウルから多くのエッセンスを学んできた。メロディはおれが創っているんじゃない。おれはラジオ局。フレーズをキャッチしているだけだ」というわけです。こうしてオープンGチューニングは一般的になりましたが、それでもオープンGチューニングといえばキース・リチャーズの必殺技として評価され続け、教えたことによって彼の演奏価値が下がったということはありませんでした。

今は難しいテクニックを要する曲でも丁寧なタブ譜が作られ、演奏者自身の解説もついたCDが出ているので、初心者でも一生懸命練習すればすぐに上手に演奏できる時代になっています。たとえば、日本に西村ケントというギタリストがいます。驚くべきテクニックを持ったギタリストですが、まだ若干17歳です。これまでのギタリストたちの技術や知識が簡単に取り入れることができるようになったその恩恵の上に立って、もともとあった才能が若くして花開いたのでしょう。これからが楽しみです。

さて時間があるので、もう一つギターから離れまったく違うエピソードを紹介します。「英語で元気が出るちょっといい話」という本からの紹介です。

かつて、ネブラスカに素晴らしいとうもろこしを育てる農場主がいました。毎年彼は自分のとうもろこしを州の品評会に出し、ほぼ毎回最優秀賞を受賞していました。

ある年、新聞記者がその農場主にインタビューをし、彼のとうもろこしの育て方について面白い事実を発見しました。記者は、その農場主が近隣の人たちに自分の種とうもろこしを分けてあげているということを知ったのです。「近隣の農家も毎年同じ品評会にとうもろこしを出しているのに、なぜ彼らにあなたの最高の種とうもろこしを分けてあげる余裕があるのですか?」と記者は尋ねました。「あなたのではなく、彼らのとうもろこしが優勝したら、と心配にならないんですか?」

「えーとですね」とその農場主は言いました。「種だけの問題ではないんです-とうもろこしの育て方が大事なんですよ。風の強い日には、とうもろこしの花粉が風に乗って近くの畑全部に飛んでいきます。もし近所の人たちがうちのほどよくないとうもろこしを栽培していたら、その花粉はうちのとうもろこしと混ざり、うちのとうもろこしの質も下がってしまいます。良いとうもろこしを育てたいなら、近隣の農家も良いとうもろこしを育てられるよう手助けをしなくてはなりません」

この話を聞いて記者は気が付きました。もし幸せに暮らしたいと願うなら、自分だけでなく周りの人たちも幸せに暮らせるよう手助けすれば、自分もより幸せになれるのだ、ということに。

キース・リチャーズの話とネブラスカの農場主の話を総合すると、知識や技術という自分の持っている財産を他人に伝えることは知識や技術のレベルの向上や拡大に貢献するだけでなく自らの幸せにもつながることなのだということが分かります。また一方で昔の職人さんたちのように苦労をしながら努力を積み重ねて技術を磨いていくことも大事なことですから、このことを合わせて考えてみると、賢明の生徒の皆さんにとってこの二つの話から引き出せる教訓としては、人に甘えることなく努力して自分を磨きつつ、自分の持っているよいものを周りの人に伝える、言い換えれば「発信する」ことが大事だということでしょう。そうすることによって自分だけでなく周りの人も幸せにすることができるのです。

 

それでは、今日の話を終わります。

 

参考:「多事奏論」(朝日新聞2021年5月22日)

『英語で元気が出るちょっといい話』(アルク)

KENMEI360度

入試説明会 イベント情報

光あれ 日々の所感 校長ブログ

Be Leaders

The Best

採用情報