2025/03/01
72回生の皆さん、賢明女子学院高等学校、ご卒業おめでとうございます。
草木も永い眠りから覚め、ようやく生命(いのち)の息吹を感じる季節になりました。頬に伝わる風が春の到来を感じさせてくれます。
本日は来賓の皆様、並びに保護者の皆様にご臨席を賜り、ありがとうございます。御多忙のなかご出席いただきましたこと、深く感謝申し上げます。
保護者の皆様、お嬢様のご卒業、おめでとうございます。お嬢様の晴れのお姿に、お慶びもひとしおのことと存じます。これまでの六年間、或いは三年間の長きにわたり、賢明女子学院の教育に信頼と共感を頂き、ご支援、ご協力を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。
72回生は、明るく人懐っこく、個性豊かな学年でした。日々、生き生きと学校生活を送るあなた達の姿は、私の目にいつも新鮮に映っていました。しかし、表には出さずともそれぞれに、それぞれの苦労や戸惑いもあったことでしょう。新型コロナに翻弄され、臨時休業や分散登校、修学旅行先の変更、クラブの試合中止等、多くの制約の中での生活が続きましたね。本来であれば、何の心配も無く伸び伸びと学校生活を送れたはずなのに、不安や悩みが多く、大変な思いをしたことでしょう。しかし、そのような困難な状況のなかでも、物事を前向きに捉え、出来ることに精一杯取り組み、それらを乗り越えて、あなた達は今、卒業の時を迎えたのです。
巣立ちゆく72回生の皆さんに、私の大好きな聖書の言葉を贈ります。
「あなたがたは地の塩である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられよう。もはや、何の役にも立たず、外に投げ捨てられ、人々に踏みつけられるだけである。あなたがたは世の光である。山の上にある町は、隠れることができない。また、ともし火をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである。そのように、あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい。人々が、あなたがたの立派な行いを見て、あなたがたの天の父をあがめるようになるためである。」
(マタイによる福音書5章13~16節)
イエス・キリストは弟子たちに対し、「あなた方は、かけがえのない存在で、社会の中で活躍していける賜物、タレントを持っています。それを充分に使いなさい」と言っておられるのです。塩は、生きていくうえで欠かすことの出来ないものであり、私たちの食事を味わい深いものにしてくれます。腐敗を防いだり、清めたりもします。
「地の塩」は他者のため、社会のため、世界のために働き、人々に生きる意味を与え、腐敗を防ぎ、あらゆる汚れを清めるもの。光は、暗闇の中にあって、燈台のともし火のように、人を行くべき場所へと導いたり、世の中に明るさや暖かさを与え続けてくれるもの。清く明らかな行いで、希望の光を周囲に発し続けることが「地の塩」「世の光」となることなのです。
皆さんはこれから、それぞれの道を歩んでいくことになります。新しい環境があなた方の新たな挑戦を待っているのです。皆さんひとり一人が、「地の塩」として世の中に風味を与え、「世の光」として、周囲を明るく照らす、掛け買いなき存在であることを忘れないでください。困難に直面した時、賢明の精神を思い出し、自分自身の持つ力を信じて下さい。他者への優しさや思いやりを忘れず、困っている人々に手を差し伸べることが出来る人であり続けて下さい。「賢明」で身に着けた学びを知恵に変えて周囲の人に心を尽くし、地球を一つに結ぶ平和の使者として社会に貢献できる人になって下さい。
結びに、72回生の幸せを願って、『胸の泉に』という詩を皆さんに向けて贈ります。
「胸の泉に」
かかわらなければ
この愛しさを知るすべはなかった
この親しさは湧かなかった
この大らかな依存の安らいは得られなかった
この甘い思いや
さびしい思いも知らなかった
人はかかわることからさまざまな思いを知る
子は親とかかわり
親は子とかかわることによって
恋も友情も
かかわることから始まって
かかわったが故に起こる
幸や不幸を
積み重ねて大きくなり
くり返すことで磨かれ
そして人は
人の間で思いを削り 思いをふくらませ
生を綴る
ああ何億の人がいようとも
かかわらなければ路傍の人
私の胸の泉に
枯れ葉いちまいも
落としてはくれない
(塔和子 胸の泉に)
今日、皆さんは卒業という特別な日を迎えました。皆さんの胸の中には、未来への希望が満ちていることでしょう。自分自身を信じ、胸に宿る希望の泉を大切にして、無限の可能性を歩んでください。皆さんひとり一人が、世を照らす光であることを自覚し、自らの内なる光に気づき、その光を他者のために役立てて下さい。泣いている人、困っている人がいればあなたの光で照らし、力づけて上げて下さい。
それでは、本日ここにいらっしゃるすべての皆様の上に、神様の豊かな祝福がありますようお祈りして、私の式辞とさせていただきます。
2025年3月1日