賢明女子学院中学校・高等学校

光あれ 日々の所感 校長 松浦明生光あれ 日々の所感 校長 松浦明生

2026/09/28

「ぼくのニセモノをつくるには」と「AI」

皆さんは、ヨシタケシンスケさんの「ぼくのニセモノをつくるには」という絵本を読んだことがありますか。この本に登場する主人公の男の子は、ある日「面倒なことを全部、代わりにやってくれる『ニセモノ』がいたらいいのに」と考えます。宿題も、歯医者さんも、気の進まないお手伝いも全部、ニセモノに任せてしまえば、自分は好きなことだけやっていれる。そんな都合のいい思いつきから、この物語は始まります。

ところが、いざ「自分そっくりのニセモノ」を作ろうとすると、なかなか思うようには行かず、男の子は困ってしまいます。顔や背の高さは真似できても、それだけでは本物の「自分」になれない。歩き方のくせ、笑うタイミング、家族との話し方、好きな遊び、昨日あった出来事の記憶等。「ニセモノに教え込まなければいけないこと」自分の細かい癖や特徴を数えていくうちに、男の子は「自分という人間は、パッと見の形だけではなく、これまで経験したこと全部の積み重ねでできているのだ」と気づきます。

そして、「面倒だからニセモノに任せたい」と思っていたけれど、ニセモノには苦手なことにどう向き合うか、失敗したときにどんな顔をするか、誰かに謝るときにどんな言葉を選ぶか。そのような自然な対応ができないことが解ったのです。

この絵本は、「自分の代りをしてくれる便利な存在を考えること」を入り口にしながら、最後には「自分らしさって何だろう」という、とても大切な問いを投げかける、内容の深い絵本なのです。

今、私たちの身の回りには、少年の造ろうとした自分のニセモノにとても近いものが、存在しています。それはAI、人工知能です。AIは文章を書いたり、絵を描いたり、質問に答えたり、計算をしたりすることが、とても上手。宿題の作文だって、頼めばそれらしく書いてくれる絵本の中の男の子の「ニセモノ」のようなものです。上手に用いればAIはとても頼もしい味方になってくれます。しかし、AIを用いることには様々な問題があります。

そこで、皆さんにも絵本の中の男の子のように、よく考えてほしいのです。「面倒なこと」を全部AIに任せてしまったら、本当の自分は、いったい何をすればいいのだろう。作文を書くとき、うまく書けなくて悩む時間。友達とけんかして、どう仲直りしようか考える時間、運動が苦手で、それでも一生懸命練習する時間、そのようなめんどうなことを解決する時間の積み重ねに意味があります。失敗するからこそ、問題の感じたことを見つめ直し、よく考え、創意工夫が生れて、自分らしい自分に成長できるのです。AIに任せれば答えを教えてくれますが、任せてしまうと悩む必要がなくなります。その分、感じたことを考えに移すことができず、感性が委縮し、考えが発展せず、人間として成長できぬことになります。AIは人間の造った機械ですから、知性の塊であり感性を持ち合わせていません。やっかいなことを全てAIに任せたら、感じたり考えたりすることが段々浅くなり、気づかぬ内にあなた自身が機械のようになってしまうかもしれないのです。

AIと付き合っていくうえで、みなさんにぜひ身につけてほしい習慣があります。それは、「AIの言うことを、そのまま正しいと思い込まない」ことです。

AIは自信満々に答えますが、間違ったことでも、いかにも本当らしく答えてしまうことがあります。それは、AIは意識やデーターを一杯持っていても、真偽を見極める感性がないからなのです。だからこそ、AIを用いる私たちが一度立ち止まって、「これは本当かな」「他の考え方はないかな」と、感性に問い掛け、客観的に考える必要があるのです。

AIに何かを尋ねて答えをもらったとき、それを丸ごと信じるのではなく、「先生や友達はどう感じるかな」「本にはどう書いてあるかな」と、他の方法で確かめてみることが大切です。感想文や意見を書くときも、AIの答えをそのまま写すのではなく、「自分は本当にそう感じているか、そう考えているか」「もっと自分らしい言い方はないか」と、自分に問い直してみる。そうした確かめの積み重ねによって「AIの答えを正しく判断する力」が育ち、AIもまた正しく育つのです。

AIの言うことは一つの見方であり、その答えを参考にはしても、最後は自分で判断することを忘れないでほしいのです。もっとも大切なことは、物事をよく感じ、受け入れる心です。より深く感じることによってこそ、人を受け入れ物ごとを客観的に把握し、正しい判断ができるのです。

ヨシタケシンスケさんの絵本の最後で、男の子は自分自身で感じ考え、選択して生きていくことの大切さに気づきます。面倒くさいことも、しんどいことも含めて、人生で体験する総てのことが自分を創るのですから、物語の男の子のように日常の色々な問題に真剣に向き合い、自分自身でやり遂げる生活姿勢を身に付けてください。

これからの時代、AIはもっともっと身近な存在になるでしょう。だからこそ、AIに何を任せて、自分は何をやるのか、そしてAIの答えを正しく判断し自分はどのように考えるのか。その線引きをして、自分自身で見極め、選ぶ力がこれからますます大切になります。

面倒なことも、うまくいかないことも、人として成長するための大事な要素と成り得ますAIによる答えを鵜呑みにするのではなく、客観的な観点と現実を観極める確かな視点を明確にして、物事に対処する習慣を身につけて下さい。AIに依存するのではなく、AIを正しく使いこなせるようになってほしいのです。AIを正しく用いる為にもっとも重要なことは、感じる心を育てること。よく感じ深く考える習慣を身に付けましょう。

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